PDCAサイクルは本当に万能なのか?その問題点について考えてみた。

PDCAサイクルとは

 ご存知の通り、PDCAサイクルとは、Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Act(改善)からなるサイクルのことを指しています。もう少し具体的に説明しましょう。初めにPlan(計画)を立てます。次に、その計画を忠実に実行(Do)します。そして、その実行結果を評価(Check)します。最後に、評価(Check)で出てきた問題点を改善(Act)します。以上のサイクルを繰り返すことによって、業務を継続的に改善するというものです。

ちなみに、その起源は生産における品質改善法に端を発していると言われています。実際、PDCAの提唱者であるデミング氏は「日本の品質管理の父」とも称される人物であり、現在ではその名前を冠した「デミング賞」という賞が創設されています。

PDCAサイクルの具体例

 先ほど説明したように、PDCAサイクルは生産における品質改善法に由来しています。確かに、生産という分野に目を当ててみると、本当にしっくりきます。一度、具体的に考えてみましょう。

 ここからは、お菓子工場の工場長という目線で考えてみてください。この工場では、主力製品の不良率の高さに悩まされています。どうしても、生産時にクッキー生地にひびが入ってしまうそうです。経営層からは10%の不良率を1%以内にしろという指令を受けています。

  1. Plan(計画)
    その問題を改善するために、クッキーの生産方法に手を加える必要があります。手元のデータを見てみると、冬に不良率が多く、夏には少ないことが分かりました。以上のことから問題点は温度と湿度にあると考え、調温・調湿設備を新たに導入する計画を立てました。
  2. Do(実行)
    調温・調湿設備を稼働させながら、実際にクッキーの製造を行いました。
  3. Check(評価)
    生産したクッキーの不良率を調べてみると、不良率は5パーセントに改善されていました。しかし、まだ目標の1%には遠く及びません。
  4. Act(改善)
    クッキー製造時における温度と湿度をより適当なものにすれば、さらに不良率が下がる可能性があることが分かりました。そこで、工場内の各所に温度・湿度計を設置し、より厳密に温度・湿度を計測することにしました。

あとは、上記のことを繰り返せば自ずと、クッキー製造時における理想的な温度と湿度を発見することができます。

重要なポイントは生産現場であることです。改善のための方法論に再現性が保証されているから、PDCAサイクルによって確実に改善することが可能となっています。

PDCAサイクルの問題点

再現性の問題

 先ほども軽く説明したように、PDCAのAである「改善」には再現性が必要です。再現性には、次のような意味があります。

科学実験などにおいて、所定の条件や手順の下で、同じ事象が繰り返し起こったり、観察されたりすること。

引用:デジタル大辞泉

簡単にいうと、同じ条件で同じ行動をとれば、同じ結果が得られるということです。さて、先ほどの具体例でしめした工場の問題ですが、この場合比較的簡単に所定の条件・手順を整えることができます。だから、一度確立されたものが失われることは基本的ありませんし、PDCAサイクルを繰り返せば、改善され続けることができます。

一方で、経営や営業や接客という観点から見るとどうでしょう。所定の条件・手順を整えることは可能でしょうか?結論からいうと、不可能です。景気・自社の状況・他社の状況など自分で制御できない事象があまりにも多くありすぎます。そのため、再現性を確立することが出来ません。つまり、一度上手く行ったことが上手く行かないこともあるし、その逆もあるというわけです。そのため、一度確立した方法が有効であり続けるとは限らないのです。

以上のことから、PDCAサイクルの有効性は職種に左右されるとお分かり頂けたと思います。優秀な技術者が優秀な経営者にならない要因もそこにあるのではないでしょうか?

形骸化の問題

 最近「PDCAサイクル」というワードが独り歩きして、言葉自体が形骸化しているように感じます。例えるならば、「おはようございます」等の挨拶に近いと感じます。挨拶は行為自体に意味があるわけであって、言葉自体に意味はありません。別に「こんにちは」でも「よっ」でも「ウス」でもいいわけですからね。それと同じように、「PDCAサイクル」という言葉に意味がなくなっていると言いたいわけです。

一文字でPと言っても、計画を立てることはそんなに簡単ではありません。計画の立て方だけでも、本にすることができるくらい注意するべきことは山のようにあります。その一端がこの記事にまとめられているので、興味のある方はご覧ください。

「努力は報われる」/「努力は裏切らない」というのは本当だろうか?―適切な方法論について

もちろん、Dだって同じです。計画を正確かつ効率的に実行することも難しいです。「言うは安し行うは難し」ということわざもあるくらいですからね。また、計画を実行する体力・精神力も重要になります。CやAも論理的思考能力・情報感度がなければ、ただの感想でしかありません。詳しくは情報感度に関する記事に書いていますが、同じ結果でも人によって捉え方は全く異なります。その捉え方によって、改善のされ方が大きく変わります。

「情報感度」とは何か?運をつかむためのアンテナの張り方について

つまり、計画も実行も評価も改善も実は難しいことなんです。それらの能力を高めるためには、それ相応の時間と努力が必要となります。しかし、PDCAサイクルと言われると簡単そうに聞こえませんか?これは、計画をP、実行をD、評価をC、改善をAと短縮して一纏めにした上、PDCAサイクルが余りにも世の中に浸透しすぎたことに原因があると考えます。つまり、PDCAサイクルという言葉自体が「形骸化」してしまったと言えるわけです。ですので、計画・実行・評価・改善という一つ一つのステップをしっかりと検証しながら、PDCAサイクルを回すようにしましょう。

まとめ

  • PDCAサイクルとは
    Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Act(改善)からなるサイクルのことで、そのサイクルを繰り返すことにより、日々の業務を継続的に改善できます。
  • PDCAサイクルは万能ではない
    PDCAサイクルは品質管理法を拡張したものです。そのため、すべての業務に適用することは難しいです。特に、外部からの影響をもろに受ける職種(経営や営業)では、PDCAサイクルに再現性を持たせることが難しくなります。一方で、研究・開発・生産技術職などは条件や環境を整えやすいです。そのため、PDCAサイクルに再現性を持たせることができ、業務の効率化を図ることが出来ます。このように、PDCAサイクルの有効性は職種により異なります。
  • PDCAサイクルは形骸化している
    自分の中でPDCAサイクルの意味を形骸化させないために、計画・実行・評価・改善という一つ一つのステップをしっかりと検証しながら、PDCAサイクルを回すようにしましょう。