塾選びで失敗しないための良い塾・悪い塾の見分け方

20年近くも業界に携わっていれば、普通の人には知られることのない実情も見えてくるものです。今回もそのような観点から、巷で飛び交う情報の「それってどうなの?」というところも含めて、良い塾と悪い塾との見分け方をまとめましたので、塾選びの一助となれば幸いです。

 


塾選びの実情

世の親御さんはどのように塾を選んでいるのでしょう。ヤフー株式会社自主調査によると、次のような結果が出ているようです。

1位 家から近い(51.3%)

2位 費用が適切(38.2%)

3位 友人・知人からの評判が良い(30.3%)

(複数回答可)

また、ベネッセ教育情報サイトでは、次のような結果が見られます。

1位 家から近い(57.9%)

2位 講師の先生が熱心(34.2%)

3位 進学のための学力がつく(33.6%)

(複数回答可)

この結果には正直驚かされました。決して安いとは言えない費用をかけてまで子どもを塾に通わせるからには、学力に関する理由で選ばれているのだろうと思っていたからです。ですが、この結果を見ると、実はそうではないようです。

前者の調査では、5位に「講師の教え方がわかりやすい」(23%)がようやく出てくるようです。後者の調査にしても、3位の「進学のための学力がつく」(33.6%)があり、次いで4位に「学力がつく」(30.3%)があるくらい。ちなみに、「講師の熱心さ」は学力に直接結びつくとは限らないので、学力に関する理由とは見なせません(経験則から言えば、講師が熱心でも教え方が上手とは限りませんし、子どもの学力が上がるとも限らないのです)。

こうして理由を見るだけだと、学力に関するものよりも、家からの距離が重要視されていると解釈できます。もちろん、統計上、表面に表れる数字を鵜呑みにすることはできませんし、子どもの安全を何よりも願う親心の表れとして捉えることもできるでしょう。ですが、実際に講師職に就いていると、親御さんの中には、どうやら学力に関する理由は二の次とお考え方がいらっしゃるように感じることがしばしばあったので、この統計はそれを裏付けているようにも思えます。

では、どのような理由で、子どもを塾に通わせる親御さんが多いのでしょう?経験上、塾に精神安定剤的な役割を求めている方が多いのではないかと思われます。そういった親御さんは、子どもを塾に通わせているという事実に安心を求めているため、サービスそのものの質についてはそれほどこだわりがないのだと思います。それが、アンケート結果に反映されているのでしょう。

塾というのは、消費という観点からは、やや特殊なものであると言うことができます。というのも、サービスに対してお金を払う人と実際にサービスを受ける人が違うからです。消費においては、サービスを受ける人がお金を払うのが、ほとんどです。物を買ったり食べたりする場合もそうですし、映画を観たり遊園地に行く場合もそうですね。中には、自分はサービスを受けない、つまり、物はあげるためだけに買うし、自分は飲み食いしないが、人には驕るためだけにお金を払うという人もいるかもしれません。映画館に行っても、他人が観る分を出して自分は観ないという人もいるでしょうし、遊園地に行っても、他人の分だけお金を払い、自分は入園もしないという奇特な人もいるかもしれません。ですが、そんなことは極めて稀です。普通は、他人の分を出す場合も、自分が受けるサービス分を含めた対価を支払うものです。サービスを受ける人と、そのサービスに対してお金を払う人が一致するのです。

しかし、塾に関してはそうではありません。確かに、子どもの学力を上げるとか、塾に通わせることによって安心感が得られるといったように、間接的にサービス(?)を受けるということは言えるかもしれませんが、直接受けることはありません。直接受けるのはあくまで別人(子ども)です。こうした特殊な消費の形態が、このような親御さんの塾選びの考えに通じる一つの要因になっているのかもしれませんね。

 


塾選びにとって大切なこと

塾選びの理想的なポイント

塾というものの性質を考えた場合、それを選ぶ際の理想的なポイントは次の2つに限ります。

①成績を上げる。

②志望校に合格させる。

やや極端かもしれませんが、これら以外にはありえません。親御さんの安心感を得るためだけに通わせることも考えられるでしょうが、よほどの収入がないのであれば、やめた方が良いでしょう。成績が上がらない(横ばいである)、あるいは、下降気味であるにも関わらず通わせている方がいらっしゃいますが、功利的な観点からはっきり申し上げますと、時間とお金のムダです。その時間とお金をもっと大切なことのために充てた方が、よっぽど有益です。もちろん、個人的見解に過ぎませんけどね。

成績が上がらない場合は、塾を変えた方が良いでしょう。「でも、上がらないとしても、塾に行けば現状維持くらいはできるのでは…」ということも心配無用です。現状維持くらいなら自分でできます。もし、下がりそうであれば、別の方法を試すのも良いかもしれません。

最近はスタディサプリなんていう便利なツールがあり、低価格で全国トップクラスの講師の授業を受けることが出来ます。それを活用しながら、わからないところは学校の先生に訊けばいいのです。または、環境が変わらなければ勉強しないというのであれば、自習カフェを利用してもいい。月に数万円の費用を払うことを考えれば、ずっと安価で済みます。それで成績が下がるのであれば、塾に戻ったって構いません。よほどの変な塾でなければ許してくれるでしょうから。

このように、成績の上がらない塾にいるよりは、変化を求める方が、有益であることが多いのです。

塾選びの落とし穴

塾選びにおける理想的な2つのポイントを上にあげましたが、そのポイントを押さえる上で気をつけなければならないことがあります。それが数字のマジックです。当然と言えば当然ですが、宣伝文句に使われる数字というものは都合の良いように用いられているものが多いです。だから、選ぶ側としてはそれに振り回されないことも重要なのです。

成績アップについて

成績アップに関する数字で、「5科目合計~点アップ!」といった文言を宣伝文句に用いられているのを目にすることがよくあります。もちろん、この成果には塾側の努力も多分に含まれていることでしょう。ですが、(ここだけの話)塾を開いていれば、誰か成績の上がる生徒が現れるのは当然です。50人くらい生徒がいれば、少なくとも5~10人くらいの成績は上がるものです。その生徒の成績アップの成果が謳われていたとして、その塾は良い塾と言えるでしょうか?私にはそうは思えません。なぜなら、成績が上がった生徒が1~2割しかいないからです。少なくとも、「成績アップ」という観点からは、それほど良い塾とは言えません。

しかし、「~点アップ!」と書かれていれば、あたかも素晴らしい実績であるかのように喧伝することもできます。このように、 都合の良い数字だけをもってきて、実際のもの以上に価値を高めて宣伝するということも、場合によっては可能であるということです。これが、数字のマジックです。

(※注.  すべての企業がそうしているわけではありません。もちろん、誠実な企業も数多くあります)

では、何を基準に考えるべきか?それは割合です。 成績がアップした生徒数の、全生徒数に対する割合を見るのです。50人いる生徒のうち40~45人の、つまり8割~9割の生徒の成績が上がっていれば、良い塾と言えそうですね。

志望校合格実績について

志望校合格実績についても同じ事が言えます。よく「○○大学□□人合格!」というのも、統計における数字のマジックが用いられている場合もあります。例えば、とても優秀な生徒に複数の難関校を受験させるのです。そうすれば、1人の生徒で幾つもの実績作りが可能になります。例えば、50人生徒のいる教室で、「東大10人、早稲田10人、慶応10人、march10人合格!」という成果があったとしましょう。すると、一見、40人もの生徒が関東の優秀な大学に合格したのだから、8割も難関校に進学させた優秀な教室のようにみえるかもしれません。しかし、実態は、東大に合格した優秀な生徒たちが早稲田も慶応もmarchも受けていたとしたらどうでしょう?50人中10人だけが難関校に進学しただけなので、2割の生徒に関してしか、成果が出ていないことになります(もちろん、見方によっては、10人も東大に送り込んだのだから、立派な実績と言えるかもしれませんが)。

その数字の意味するところを厳密に捉えるならば、決して虚偽とはなりませんが、誤解を招きかねないというのも事実です。従って、その数字が表すことをしっかりと受け止めることが大事なんですね。ここでも、成績アップについて述べたのと同様に、 合格実績を出した生徒数の、全生徒に対する割合を見ることが重要なんです。

志望校合格実績については、まだ2つ程注意しなければならないことがあります。まずは、入塾試験について。大手進学塾においては、難関校受験クラスに入るためには入塾試験を受けなければならないところがほとんどです。身も蓋もない言い方をするなら、見込みのない人は入れませんよってことです。そうすれば、合格率は必然的に高くなりますね。実績としては申し分ない数字が出てくると思います。だから、合格実績が秀でているといっても誰にでも適しているというわけではありません。肝要なのは、その子に合った塾を選ぶことです。集団か個別か?または、大手か個人塾か?子どもの個性は千差万別。よって、個性に合わせた形態を選ぶようにしましょう。宣伝文句としての数字を、それが意味するところ以上に神聖視する必要はないのです。

そして、もう一つが志望校の選定についてです。基本的には、秀でた合格実績を謳う塾においては、受験先は受かるであろう学校を進められます。塾としては、当然、実績作りが重要になります。ですから、受かる見通しがはっきりと立たない場合、志望校の変更を求められるケースがあるのです。それが、生徒や親御さんにしてみれば、不本意な受験に繋がることもあります。それを考慮に入れると、合格実績が優れている塾が、すべての生徒にとって、必ずしも良い塾であるとは限らないのです。

もちろん、ネガティブなことばかりではありません。逆に言えば、入塾試験にも受かって、受験先として適切と判断されたなら、合格実績が優れている塾に通っている方が有利であることには変わりませんから。要は、与えられた情報を一意的に捉えないことが重要なのです。

 


まとめ

何も、大手の進学塾や宣伝文句に合格実績を謳う塾を批判しよういうわけではありません。そういった塾の謳う実績は、企業努力によってもたらされた優れた成果であることには変わりないからです。そして、その指導法にハマった生徒は受験に強いというのも、やはり事実ですし。

しかし、だからといって、すべての生徒にとって良い塾であるとは限りません。いくら優れた実績のある塾でも、ご自身のお子さんの成績が上がらない、あるいは、志望校に合格できなければ、良い塾とは言えないのです。

何度も言いますが、良い塾とは、通わせるお子さんの成績が上がるか、志望校に合格できるよう指導してくれる塾です。「良い・悪い」という判断基準は一意的に測れるものではありません。あくまで、その子に合った指導法を実践するべきです。そのためには、表面的な数字にとらわれることなく、その子の個性に目を向けることが何よりも重要なのです。

by    tetsu