フレームワークはロジカルシンキングの基礎でない理由

巷のロジカルシンキングの問題

ロジカルシンキングという言葉も最近定着してきましたね。それと同時にロジカルシンキングの方法を指導する企業も増えてきました。以前から敵情視察ということで、他社が発刊する書籍を読み、彼らがロジカルシンキングについてどのような指導をしているのかを調査していました。すると、そこには根深い問題があることに気付きました。

それは、「本質を突き詰めずに小手先の技術に頼ること」です。ここにおける本質とは、「考えること」で小手先の技術とは「フレームワーク」を指します。つまり、ロジカルシンキングの本質である「考えること」を突き詰めず、小手先の技術である「フレームワーク」に頼っているということを問題視しているわけです。

この結果、巷のロジカルシンキングは意識高い系製造装置に成り下がってしまいました。意識高い系とは、「自分を過剰に演出するが中身を伴っていない人」のことを指します。先ほど言及したロジカルシンキングの問題と構造がそっくりなことが分かると思います。

フレームワークは小手先の技術

こういう風に言うとそれは違う!って人が出てくると思います。「フレームワークは小手先の技術ではなく、基礎的な型であり、それらを複合させることによって、様々な応用が可能となんだ!」とね。

基礎の意味を調べてみると、「ある物事を成り立たせる、大もとの部分。」とありました。つまり、基礎とはその先にある応用をすべて包含し得る本質的なものでなければなりません。本当に、フレームワークはロジカルシンキングの基礎と成り得るのでしょうか?

ところで、「武井壮」という方をご存知でしょうか?そう、よくテレビで動物の倒し方を説明しているあの人です。あんな感じなのでふざけてる人のように見えますが、実はマスターズ陸上4×100mリレーで金メダルを取るほど凄いスポーツマンなんです。逸話の一つに自分は小学5年生の時にアスリートになることを誓い、お酒を飲まないと宣言したそうです。それから現在に至るまで一度もお酒を口にしたことがないらしい。ほんと普通の人が真似することができないレベルでストイックですよね。

その武井壮さんがあることを仰っていたのです。その言葉を聞いた時「なるほど!」と思いました。それは、「自分の身体を自分の思った通りに動かすことがスポーツの上達における基礎である」ということです。当たり前の話ですが、同じ武道といっても剣道と空手の動作の基本型は全く異なりますよね?しかし、武井壮さんの「自分の身体を自分の思った通りに動かす」という観点からみれば、剣道も空手も大差ありませんし、そちらの能力に優れていたほうが素早く両武術の型を自分のモノにできるでしょう。

このような優れた発想が今まで世に出てこなかったのは、スポーツの世界が閉鎖的な職人気質であったことが大きいかもしれません。一方で、武井壮さんは中学では野球、高校ではボクシング、大学では陸上と様々なスポーツをしてきました。そのなかで、全てのスポーツに共通する重要な「自分の身体を自分の思った通りに動かす」ことに気付いたのかもしれませんね。

やはり、一つのものを極めようとするとどうしても近視眼的な目線でしか見れなくなるものですからね。過度ともいえるほど分業化した今の時代では、その傾向は様々な分野でより強まっているかもしれません。

ロジカルシンキングにも同様のことが言えます。なぜ、日常生活には生かされず、ビジネスにしか用いられないのか?なぜ、コンサルティング業など一部の業種にしかその能力が重宝されないのか?ロジカルシンキングはもっと普遍的で他分野に応用可能なはずなのに、いつから特殊化してしまったのか?

それは、ロジカルシンキングの基礎と定めているフレームワークが小手先の技術でしかないからです。そのような小手先の技術は分野が変われば、全く役に立ちません。それどころが、ロジカルシンキングが持つ可能性を狭めてしまいます。その結果、前述のような問題が生じたと言えるでしょう。

では、何が基礎なんでしょうか?

それは「考えること」です。

それが分からない方は以下の記事を参考にしてみてください。

さて、ここまではフレームワークが完全であるという前提の元で話を進めてきました。果たして、フレームワークは本当に完全なのでしょうか?

フレームワークの不完全性

フレームワークの中でも基礎中の基礎と言えば、MECEやピラミッド構造です。というわけで、それらのフレームワークの問題点について話します。

MECEの問題点

MECEとはMutually Exclusive and Collectively Exhaustiveの略で直訳すると、「互いに排他的かつ全体としてあまりがない」と訳することができ、意訳すると「モレなくダブりなく」ということになります。

では、MECEの何が問題なのでしょうか?

車を所有する人と所有しない人などあり・なしの単純な問題であれば、モレなくダブリなく分割することが出来ます。しかし、現実はもっと複雑な連続体として形成されています。その上、現実は1面的なものではなく、多面的に構成されています。それゆえ、それらを全て考慮してモレなくダブりなく分類することはできないのです。

「いやいやそんなことはありませんよ!たまさんはSWOT分析とかご存知ないんですか?この方法なら多面的とは言えなくても、2次元的に物事を区別することができますよ?しかも、きれいに分類できていますよ。そんなことも知らないんですか?」って言う方もいると思います。

※SWOT分析とは、下の図に示しているように目標達成に貢献する内的要因・外的要因と目標達成を阻害する内的要因・外的要因のマトリックスに分ける代表的なMECEのフレームワークの事を言います。

SWOT分析には2つの欠陥があります。

1つは区別された要素の強さが示されない点です。例えば、強みに分類される要素が1個だったします。一方で弱みに分類される要素が10個だとします。また、機会と脅威の数は3個だとします。このように、要素を数字のみとして扱えば、目標の達成は困難だということになるでしょう。しかし、たった一つの強みが圧倒的なものであれば、話は別になるとおもいませんか?

もう1つは要素の多面性を考慮できていない点です。「両刃の剣」という有名な言葉がありますね。この言葉は「一方では大きく役に立つが、他方では大きな損害をもたらす可能性があること」を意味します。また、就活の面接において短所を聞かれることが良くありますが、それに対する一般的なアドバイスというのがひっくり返すと長所になるものを短所として書くべきというものでした。これらのことから言えることは、強みと弱み、機会と脅威が共存し得るということです。

果たしてそのような多面性を持つ要素を分割することが可能なのでしょうか?見た目上綺麗にMECE出来たとしても、それで真にモレなくダブりなく分類できたと言えるのでしょうか?

もちろん、このことはMECEというフレームワーク全体に言えることです。モレなくダブリなく分類することは現実のように複雑なものを単純な図式に落とし込むことと同じです。その過程で情報の一部は抜け落ちてしまいます。それは、円柱に光を当て方によって、影の形が様々に変化していることに似ています。光の当て方によって、円柱は円形の影を落としたり四角形の影を落としたりしますからね。

しかし、人間の思考能力とは極めて脆弱なものです。複雑なものを複雑なまま理解することは基本的に不可能です。世に言う天才ならそれが可能なんでしょうけど…普通の人間はいくつかの情報を切り落とし、物事を単純化することによってやっと理解することができます。だから、モレなくダブリなく分類すること自体は有用です。そして、その中で最も重要なのが、「どうやってモレなくダブリなく分類するのか?」ということです。しかし、その重要なHow toの部分に関してフレームワークは何も教えてはくれません。結局自分の力で考える必要があるのです。それゆえ、MECEはロジカルシンキングの基礎になりえないのです。

 

ピラミッド構造の問題点

ピラミッド構造とは下の図のようにピラミッドの最上部に結論を置き、その下部に結論を支える根拠を置きます。そして、その根拠を支える根拠を最下部に置くというものです。この図の場合、根拠A,B,Cから結論である根拠1を導き、根拠D,E,Fから結論である根拠2を導き、根拠G,H,Iから結論である根拠3を導きます。そして、導いた根拠1,2,3から結論を導くといった形になっています。

これが、世に言うピラミッド構造です。実はこのフレームワークにも問題があります。この図において初めに記入するところは当然最上部にある結論です。その次に、その結論の根拠となる根拠1,2,3を検討します。そして最後に、根拠1,2,3の根拠となる根拠A~Iを検討します。結局のところ、始めに結論を提示しているのだから、結論ありきになってしまう可能性が非常に高くなります。それっぽい根拠なんていくらでも探せますからね。

根拠の選び方次第で「来年の日経平均株価は去年より上昇する」と結論付けることも出来ますし、「来年の日経平均株価は去年より低下する」とも結論付けられます。

「それでも、説得ツールとしては有用ではないか?」

確かに、一見すると説得ツールとしては有用に思えます。しかし、そんなことはありません。どちらかと言うと責任回避ツールと言った方が正しいとさえ思えます…

まあ、その辺の話は置いといて、ピラミッド構造は説得ツールとして有用であると仮定しましょう。確か、ピラミッド構造はロジカルシンキングの基礎の型でした。おかしくないですか?基礎の型であるはずのピラミッド構造が説得ツールとしてしか意味を成さないと言うのは…

「いやいや、ロジカルシンキング自体が説得ツールじゃないか?」

まぁ、確かに一部の教本には「ロジカルシンキングとはわかりやすさ」だと書いてましたしね…

本当にそう思う方下記の記事をご覧ください。ロジカルシンキングの成果について書いています。

上記の記事を見て頂ければ、ロジカルシンキングはただ説得ツールではなく様々な分野に応用可能なものであることがお分かり頂けると思います。よって、説得ツールとしてしか役に立たないピラミッド構造はロジカルシンキングの基礎にはなりえないのです。

まとめ

MECEの場合は、最も重要となる「どうやってモレなくダブりなく」分割するという点に関してMECEの知識は何の役にも立ちません。なぜなら、切り口は自ら考える必要があるからです。だから、「考える能力」がなければ、切り口も考えることができずMECEというフレームワークは役に立ちません。その時点で、MECEは基礎に成り得ないのです。それだけでなく、MECEには「区別された要素の強度を表せない」、「要素の多面性を考慮できない」という問題があります。そのため、MECEを使う際にはそれ相応の論理的思考力が必要となります。

ピラミッド構造の場合は、そもそもの結論が結論ありきのものになってしまいます。そのため、ピラミッド構造は良く言えば「説得ツール」、悪く言えば「責任回避ツール」となります。しかし、そのピラミッド構造はロジカルシンキングにおける基礎として位置づけられています。当たり前のことですが、良く考えても「説得ツール」にしかならないピラミッド構造も基礎に成り得ません。

以上のことから、フレームワークはロジカルシンキングの基礎には成り得ないことが分かって頂けたと思います。