マーガリンをプラスチック呼ばわりで大騒ぎする科学技術立国・日本の憂鬱

次に示しているグラフは、縦軸に大人の理解度、横軸に子どもの学力をとったものになっています。そのグラフの中で右下にあるのが日本です。子どもの学力は25か国中2位なのに対し、大人の理解度は25か国中22位というヤバい結果でした。

なお、縦軸にある大人の理解度は各国に共通する13の問題に対する平均正答率によって算出されています。横軸にある子供の学力は国際学力調査における科学的・数学的リテラシーの平均得点の合計値によって算出されています。

引用:文部科学省科学技術白書

この大人の科学に対する理解度の低さが、血液クレンジング・水素水などの信憑性の低い科学技術(疑似科学)への信奉に繋がっているのではないでしょうか?そのような土壌があるからこそ、マーガリンはプラスチックから出来ている?といううわさが広まったのかもしれません。

というわけで、今回はマーガリンとは何か?についてマーガリンがプラスチックから出来ていると勘違いされたワケについて説明したいと思います。

マーガリンとは?

マーガリンの概要及び原料は次のようになっています。

精製した油脂に粉乳や発酵乳・食塩・ビタミン類などを加えて乳化し、練り合わせた加工食品

~中略~

油の種類には様々なものがありますが、主に大豆油、なたね油、コーン油、パーム油、ヤシ油、綿実油、ひまわり油など植物油が60%強を占めています。動物性の油で主なものは魚油のほか、国産の豚脂・牛脂などが使われています。

引用:日本マーガリン工業会

当然のことながら、プラスチックの原料である石油なんて一切使用されていません。上にもあるように、油脂の原料は植物油が60%強、動物性の油が40%弱となっています。つまり、マーガリンの原料は普段私たちが食している食品の脂分を抽出したものと解釈できます。

でも、植物性の油って大体液体じゃないの?なんで、マーガリンは半固体になっているのさ?と疑問に思われる方も多いと思います。それは、製造過程において水素を添加しているからです。水素を添加すると、不飽和脂肪酸が飽和脂肪酸に変化します。すると、融点が高くなり常温で半固体化します。

※不飽和脂肪酸とは、一つ以上の炭素二重結合(C=C)をもつ脂肪酸のことです。
※飽和脂肪酸とは、一つも炭素二重結合(C=C)をもたない脂肪酸のことです。

その水素添加時には、トランス脂肪酸が生成されることが分かっています。トランス脂肪酸は健康に対する悪影響があると示唆されており、米国ではトランス脂肪酸の量の表示義務や使用規制が行われています。ただし、このトランス脂肪酸は人工的な物質ではなく、牛乳や牛肉中にも脂肪分の4~5%ほど含まれています。

マーガリンがプラスチック呼ばわりされたワケ

それは、英語から日本語に翻訳する際に誤解を誘導するような表現をしたためだと考えられます。その表現というのが、マーガリンはオイルに水素を付加することにより、プラスチック化するというものです。

実のところ、訳自体に問題はありません。しかし、英語や科学知識に疎い人にマーガリンって石油に水素をくっつけて作るプラスチックだったの?と誤った解釈をさせようという意図が感じられます。

一口にオイル(油・脂)と言っても、石油由来のものから、植物・動物由来のものまで沢山あります。もちろん、マーガリンは植物・動物由来の油脂から作られています。

そして、英語のplasticには主に2つ意味あります。1つは、プラスチック(ビニール袋やペットボトルなど)です。2つ目が塑性(自由に形が変わる性質)という意味です。もちろん、マーガリンの場合は2つ目の訳が適用されます。

塑性の例…チョコレートを温めて溶かすと、形を変えられる。マーガリンを焼いたパンに塗ると、薄く広がる。

しかし、2つ目の意味を知る日本人がどれほどいるのでしょうか?科学知識・英語に疎い人は間違いなくplastic=プラスチック(ビニール袋・ペットボトル)と訳してしまうでしょう。

そう考えると、先ほど示したマーガリンはオイルに水素を付加することにより、プラスチック化するという日本語訳は明らかに誤解を招くよろしくない表現と言えます。しかし、この表現に騙される大人の日本人のリテラシー能力にも問題があるのも事実です。

まとめ

  • マーガリンは植物・動物由来の油脂から作られている。
  • マーガリンが半固体なのは、不飽和脂肪酸に水素を添加して、油の融点を上げているから。
    それにより、常温では半固体・高温では液状になる。この効果により、トーストに満遍なくマーガリンを塗ることができる。
  • 不飽和脂肪酸に水素を添加する過程で、人体に悪影響を及ぼすとされるトランス脂肪酸が生成される。
    アメリカでは、トランス脂肪酸量の表示義務や使用規制が行われている。
  • マーガリンはビニールやペットボトルのようなプラスチックではない。
    プラスチックという言葉は、マーガリンの塑性(自由に形状が変わる性質)を表しているに過ぎない。