ある職人同士の口論

光の職人

監督「どうだ?仕事は順調に捗ってる?」

職人A「あ、監督。おはようございます。そうですね、色々と悩みましたが、なかなかのデキだと思いますよ。」

監督「そうか、そりゃ良かった。もう試作品ができたのか?」

職人A「ええ。これがそうです。」

監督「どれ、見せてくれ。…ほう、なかなか良いデキじゃないか。」

職人A「でしょ?色合いといい、大きさといい。ちょうどいい具合ってのがなかなか難しくてね。大きすぎると邪魔になる。支えの棒も必然的に大きくしなきゃならないし、そうすると全体として大きくなり過ぎる。かと言って、小さいと意味がない。100m先くらいからでもわかるようにしなきゃなんねぇし。」

監督「だな。手に持つとかなり重いが、まあこれくらい大きくなきゃ意味ねえ。形はこれでいくのか?」

職人A「ええ。やっぱ丸が一番安定するんでさぁ。お星様だってマンホールの蓋だって結婚指輪だって、壊れちゃならねぇもんはみんな丸っこいでしょ?外からの圧力に強いし、こればっかりは丸っこい方がいいかなと。」

監督「そうだな。万が一もあっちゃあならねぇ。そいで、このツルッとしたところが…」

職人A「光るって寸法でさぁ。そいつを2つほど付けます。まあ縦並びでもいいんですが、基本は横並びにしようかと。」

監督「このお前さんの顔ほどもあるもんが光るってわけか。それも2つ。」

職人A「へい。これで気付かなきゃナマケモノもビックリのウスノロってやつでさぁ。」

監督「色は?」

職人A「これも悩んだんですが、結局、監督と話し合った通り、赤色にしようかと。」

監督「止まれの信号も赤。嘘だって真っ赤。警戒するもんに関しちゃその方がいいだろう。」

職人A「ええ。そして実はもう一つ工夫を凝らしてまして。」

監督「ほぅ、てぇと?」

職人A「この2つの丸っこいのを交互に光らせようかと。もちろん、主役は佐々木小次郎の愛刀のような、この棒っきれですが、これだとある程度遠くからでも見えますんで、注意しやすいんじゃないかと。」

監督「なるほど。いっぺん光らしてみな。」

職人A「へぃ。こんな具合でさぁ。」

監督「へぇ、なかなかいいもんだね。これなら問題ねぇだろ。よし、これで仕上げてってくれ。」

職人A「へい、わかりやした。」

 


音の職人

監督「どうだ?仕事は順調に捗ってる?」

職人B「こりゃ監督、仕事はいたって順調でさぁ。取りあえずモノは出来上がってます。」

監督「へえ、さすが仕事が早いねぇ。」

職人B「ええ、モタモタしてんのは性分に合わねぇんで。男たる者、何でもチャキチャキっとしなきゃ。」

監督「はは、お前さんらしいな。だったら早速聴かせてもらおうか。」

職人B「へい。本当はかなり大きいんですが、ここでは小さめに聴いていただきやす。」

監督「ほぅ、なかなかいいもんだね。」

職人B「へへ、でしょ?それなりに聞く音だから、あんまり耳をつんざくような音じゃあいけねぇ。かと言って、ウブな子どもじゃねえんだから、何言ってっかわかんねえのもダメだ。程よくかしましくなくっちゃあってんで、この音に行き着いたんでさぁ。これですと、何かの音に紛れることもねぇでしょう。」

監督「ああ、これならしょっちゅう耳にしても不快な感じはしねえし、かといって、ある程度注意は促してる感じがする。言葉ではなかなか正確に表現しづらい音だな。」

職人B「ええ、似たような音では表現できそうですがね。以外と難しいもんです。さしずめ、〈か〉の半濁音てなとこでしょうか。」

監督「そうだな。よし、何も問題はねぇだろう。これで仕上げてってくれ。」

職人B「任しておくんなせぃ。」

 


問題勃発

監督「まさかこんなことになるたぁな…。間違いねぇのか?」

職人A「へぇ、何度も試してみましたが、やはり…。」

職人B「おいおいおいおい、何だってこんなことになるんだい?こんな間抜けな話ゃ聞いたことがねぇよ!」

職人A「間抜けなのは、お前さんのおつむの方じゃないのかい?」

職人B「何だと!?コンチキショー!元はと言えば、てめぇんとこのモノがトロトロとしてっからいけねぇんだろうが!そもそも点いたり消えたりすることなんかねぇんだ!点けっぱなしでいいだろうよ!」

職人A「わかっちゃねぇなぁ。いいかい?よくお聞き。それだとお天道様の光に霞んで、光ってるのか消えてるのかがわからなくなっちまう時があるのさ。あくまでこれは注意を促す光だ。だったら、点いてるのか消えてるのかはっきりしなくちゃなんねぇ。そのために、わざと点いたり消えたりさせる必要があるのさ。2つ並んだこいつらの光が明滅することで、点いてる状態と消えてる状態がわかりやすくなるだろ?つまり、気を付けろって知らせがあるってのが一目瞭然になるわけだ。」

職人B「だからって、こんなにトロくさくする必要はねぇだろうに!」

職人A「何だって?お前さんがせっかちなだけだろ。いいかい?こいつは待ってくれってしるしだ。それがそんなにせっかちじゃあ待たされてる方はたまったもんじゃねぇ。何だか急かされてるみたいで落ち着かねぇんだ。そんなに急ぎたきゃあ、独りで地球の周り回って、勝手に1日を12時間くらいで終わらせりゃあいいだろ。」

職人B「何だって!?」

監督「まあ待て。それぐらいにしときな。これから力合わせて1つのモン作らなきゃなんねぇ時に言い争ったって解決しねぇだろ。」

職人A「ですが、監督…。」

監督「作ったモンは仕方ねぇ。仕上げろって言ったのは俺の責任だ。無理を承知で訊くが、合わせるこたぁできねぇのかい?」

職人A「ええ、もう仕上げちまったモンはどうしようもねぇです。もう少しばかり速めたって構いませんが、仮に速めたところで、きちんと合うかどうかはわかりやせん。少しでも合ってねぇと、結局、時間が経てば、ズレちまう。それだと速めた意味もねぇですし。」

職人B「こっちだってそうですよ。音響効果として、最適なテンポで繰り返してんだ。遅くできねぇこともねぇが、あっちの言う通り、完全に一致しねぇと、意味がねぇ。そもそも仕上げちまったモンですし。それに、こちらも一応は職人の端くれだ。それなりの誇りを持ってやってること。監督の言うこととは言え、一度仕上げちまった仕事をおいそれと変えるなんてできっこねぇ!」

職人A「それに関しちゃ、こいつと同意見です!他人に迎合する仕事をしたとあっちゃあ、男が廃るってモンよ!」

監督「わかったわかった!今回はこちらの指示で仕上げさせたことだ。双方ともに尽力し、仕事には職人としての矜持を持ってあたっている。あらゆる事情を考慮すると、たかが光と音の微妙なズレを修正することに、それほどの意義は感じられない。出来上がったコイツの役割は、注意を喚起することが第一義である。そもそも、それほど光と音のテンポの一致に、皆が皆注意を払うものでもないだろう。よって、今回の件については、光と音のテンポが合わなくともよいこととする!」

 

なぁ~んてやり取りがあったと思うんですよ。きっと。でなきゃ、考えられへん。

個人的にすっげー気になる、鉄道踏切のランプの光と音のテンポがビミョーにズレているわけ

(※注. この物語はフィクションかもしれません。本当の事として周りに吹聴するのはやめましょう。)

by    tetsu