林修先生が言った「年収890万未満はお荷物」は本当なのか考えた

以前、テレビにて林修さんが「年収890万未満はお荷物」と言っていました。年収890万未満だと税金で払った分より多くの社会的サービスを受けられるから、社会のお荷物というわけです。

この件について詳しく調べてみると、この言説は林修先生が唱えたものではなく、山本一郎さんというブロガーが提唱したものらしいです。

にわかには信じられなかったので、詳しく調べてみました。

この記事で分かること
・税金の利益・負担割合について
・年収890万以下はお荷物の根拠
・年収890万言説のトリックについて

まず、内閣府の「税・社会保障等を通じた受益と負担について」から見ていきましょう。

本資料では、「年金・医療・介護・教育・保育」等の公からの利益と「消費税・所得税・社会保険料」等の公への負担を年収・世代・世帯構成別に比較をしています。

また、利益負担となる場合は受益利益負担となる場合は負担とされます。山本一郎さんの分析では、その損益分岐点は年収890万円にあるとしています。

年収890万円のトリックをあばく

現役世代(20~59歳)の受益・負担構造

出典:内閣府ホームページ(https://www5.cao.go.jp/keizai3/jueki_futan/0929jueki_futan.pdf)

この資料を見る限り、現役世代の受益・負担の分岐点は400万弱です。また、年収2000万円程度に世帯までの税金・社会保険料負担率は同程度です。

そのため、高年収者が社会を支えていると一概には言えないわけです。

また、年収400万以上の現役世代の方々は社会のお荷物どころが社会を支えているということになります。

一方で、山本一郎さんは世帯総年収890万未満は受益という述べていました。矛盾していますね。

しかし、この資料は内閣府が作成したもので、情報の信頼性としては相当に高いものです。

こういう時に考えるべきなのが、信頼性の検討です。

情報の流れを整理してみると、テレビにおける林修さんの発言に至るまでに伝言ゲームのごとく情報が伝達されていることが分かります。

情報の伝達経路を整理してみると、内閣府→山本一郎→プレジデントオンライン→番組制作者→林修→視聴者→第三者となります。とても複雑な経路をしていますね。

もしかしたら、情報伝達の過程で重要な情報が抜け落ちたのかもしれません。一方で、本記事では受益・負担構造の統計結果をそのまま内閣府から引用しています。

もちろん、メディアとしての信頼性はマスコミに到底及びませんが、本件に関しては当ブログの方が情報の正確性は高いと考えています。

高齢者(60歳以上)の受益・負担構造

高齢者の受益・負担構造出典:内閣府ホームページ(https://www5.cao.go.jp/keizai3/jueki_futan/0929jueki_futan.pdf)

この図を見ると、高齢者の受益・負担分岐点は約1400万円ぐらいです。

年金が支給されている分、現役世代と比較して、受益・負担の分岐点となる収入が大きく押し上げられていることが分かります。

高齢者の方々は戦後の焼け野原から高度経済成長を成し遂げ、日本を世界第三位の経済大国へと押し上げました。

その現役自体の貢献を鑑みれば、高齢者の時くらい国に支えてもらっても全く問題ないように個人的には思えます。

数字のトリック

さて、先ほどから話題にしている年収890万の問題ですが、これは現役世代・高齢世代の区別をしていません。

普通データを用いて議論をする場合、そのあたりの情報を明示する必要があるんですが、本件に関してはありませんでした。

このように、情報の伝達過程において重大な情報が抜け落ちることがあります

というわけで、現役世代・高齢世代を区別していないものとして考えてみましょう。こちらも内閣府の調査結果で、全世帯に占める65歳以上の者がいる世帯の割合を表しています。

出典:内閣府ホームページ(https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2017/html/zenbun/s1_2_1.html)

その割合を見てみると、全世帯の約47パーセントに65歳以上の方がいることが分かると思います。(2015年)このことから、全世帯における受益・負担分岐収入は400×0.53+1400×0.47=870万円となります。

この数字は、山本一郎さんが仰っていた年収890万という数字と非常に近いです。やはり、現役・高齢者関係なく一律に計算したようですね。

そもそも、現役世代は社会を支える側であり、高齢世代は社会に支えられる側です。現役世代と高齢世代の税制をごちゃまぜにすることで、ミスリードを狙っているように感じました。

まとめ

ここにおける受益・負担構造は税金面のみのことを示しています。もちろん、私は年収400万以下の方々が、「社会のお荷物」と考えたことはありません。

  • 現役世代の場合、世帯年収約400万未満において受益となる。
  • 高齢世代の場合、世帯年収約1400万未満において受益となる。
  • 現役世代と高齢世代を合わせて考えると、世帯年収約870万未満において受益となる。
  • 今後少子高齢化はさらに進むので、現役世代の損益分岐年収は更に低下する。

そもそも年収が低ければ社会のお荷物なのか?

そもそも、「年収が低ければ社会のお荷物」という考えが良くありません。

例えば、介護職です。

介護職はその業務の性質上低賃金になりがちで、平均年収300万円程度と言われています。現役世代の受益・負担の分岐収入が約400万円ですので、介護職についている方は「社会のお荷物」という滅茶苦茶な言い方が出来てしまいます。

それはさすがにおかしいですよね?

介護職の方々の労働がなければ、間違いなく日本社会が回らなくなります。高年収の方々も両親の介護を行える人がいなくなれば、十分なパフォーマンスもできなくなってしまうでしょうしね。

高齢化が進む日本において、介護士の果たす役割はこれからもっと大きくなるでしょう。

保育士の方々もそうですね。保育士の平均年収も300万円程度と言われています。子供の命に細心の注意をしながら働くのは並大抵のことではありません。

最近は女性の社会進出により、子持ちの共働き世帯が増えていますが、そのためには「保育士」の活躍が絶対に必要になります。それでも、保育士は「社会のお荷物」なんでしょうか?

おかしいですよね。彼ら、彼女らは社会のお荷物ではありません。むしろ、社会に欠かすことのできない貴重な人たちです。

彼らの年収が低いのは、本人の努力不足ではなく、社会構造の問題です。そのような問題を棚上げにして、低年収者を見下すような発言は、到底許されるものではないと私は考えます。